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パンデミック時だからこそ大切にしたい分子整合栄養学的アプローチ 【後編】

2021年5月末現在、世界中で猛威をふるう新型コロナウイルス感染症から身を守るために、私たちにできることは何でしょうか。前編では、感染予防のための分子整合栄養学的アプローチについて解説しました(前編はこちら)。今回の後編では、感染してしまった際に重症化を防ぐための分子整合栄養学的アプローチについて取り上げます。

1. 新型コロナウイルス感染症が重症化する原因とは?

新型コロナウイルス感染症が重症化する原因は、「過剰な炎症による細胞機能の低下」です。

粘液や粘膜の物理的バリアを突破して細胞内にウイルスが侵入すると、ウイルスが増殖し始めます。身体は、ウイルスの増殖を阻止するために全身から免疫細胞を集め、ウイルスに抵抗しようとします。このとき、病原体から身体を守るために免疫細胞が起こす防御反応を炎症と呼びます。炎症は病原体や感染細胞を排除するために不可欠な反応ですが、過剰な炎症は正常な細胞までをも傷つけます。感染時に免疫力が低下していてウイルスの増殖を抑えることができないと、免疫細胞は更なる炎症を起こしてウイルスを排除しようと奮闘します。その結果、過剰な炎症が起こって感染細胞の周囲の正常な細胞までもが傷つき、組織全体の機能が低下してしまいます。新型コロナウイルス感染症においても、感染時に免疫力が低下していてウイルスの増殖を抑えることができないと、過剰な炎症が誘発されて炎症部位が拡大します。その結果、血栓症が引き起こされて全身の細胞機能が低下し、多臓器不全に陥って最悪の場合死に至ります。

では、新型コロナウイルス感染症の重症化を防ぐためにはどうしたら良いのでしょうか。ポイントは、免疫力を維持する、過剰な炎症から正常な細胞を守る、そして傷ついた細胞を速やかに回復することです。免疫力を維持するための対策は前編で解説いたしましたので、今回は過剰な炎症から正常な細胞を守る対策と傷ついた細胞を速やかに回復する対策について取り上げます。

なお、当記事では各栄養素に対してKYBクリニックが推奨する感染時の1日の摂取目安量を記載していますが、栄養素の必要量には個体差があり、身体の状態によっても必要量は異なります。KYBクリニックは新型コロナウイルス感染症の診療・検査医療機関ではありませんが、分子整合栄養学に基づく栄養相談をオンラインや電話で承っておりますので、健康に不安を感じる方はお気軽にご相談ください。

2. 過剰な炎症から正常な細胞を守る分子整合栄養学的アプローチ

過剰な炎症から正常な細胞を守るためには、抗炎症対策に加えて抗酸化対策が必要です。抗酸化対策としては、身体に元々備わっている抗酸化酵素の働きを維持し、抗酸化作用のある栄養素を食事から取り入れることが重要です。

① 抗炎症に役立つビタミンDとEPA・DHA、ハーブを補給する

前編でも取り上げた通り、ビタミンDとEPA・DHAは過剰な炎症を抑制する栄養素です。新型コロナウイルス感染症においては、重症者でビタミンDとEPA・DHAの血中濃度が低い傾向にあったとの報告があります(注1, 2)。これらの栄養素は、摂取を開始してから血中濃度が高まるまでに時間を要するため、普段から積極的に補給しておくことが勧められます。ビタミンDは1日に8,000~12,000IU程度、EPA・DHAは1日1g程度摂取することが望ましいです。

ボスウェリアセラータやホップ、ケイヒ、黄杞葉などのハーブには、炎症を抑制する成分が含まれることから、薬草の一つとして古来より伝承医学に利用されてきました。ボスウェリアセラータはインド周辺に自生する樹木で、樹脂に含まれるボスウェリア酸が抗炎症作用をもつことが知られています。また、ビールの苦み成分として知られるホップや、シナモンの別名で親しまれるケイヒ、中国で甘茶として飲用されてきた黄杞葉には、キサントフモール、ケイアルデヒド、アスチルビンという有効成分がそれぞれ含まれており、炎症を促進する生理活性物質の合成を阻害するとされています。新型コロナウイルス感染症に関しては、これらのハーブを用いた臨床研究はまだ存在しませんが、ボスウェリア酸、キサントフモール、ケイアルデヒドの炎症抑制作用が重症化予防に役立つ可能性があるとの見解を示す仮説が発表されています(注3, 4)。1日の補給量としては、4種類のハーブを併せて1回450mgを3回程度摂取することが望まれます。

② 抗酸化酵素の材料となるグルタチオンと微量ミネラルを補給する

免疫細胞が炎症を起こすときに必ず発生するのが活性酸素です。活性酸素とは、エネルギー代謝の過程で必然的に発生する不安定で活性の高い酸素のことです。感染時は免疫細胞が大量のエネルギーを必要するため通常時より多くの活性酸素が発生します。活性酸素は免疫細胞が病原体と闘うための武器としての役割をもちますが、過剰に発生すると正常な細胞までをも傷つけてしまう諸刃の剣です。したがって、新型コロナウイルス感染症の重症化を防ぐためには、過剰な炎症を抑制する抗炎症対策と同時に、活性酸素から正常な細胞を守るための抗酸化対策が重要だと考えられています(注5, 6)。

私たちの身体は、活性酸素を無害化する様々な抗酸化酵素を備えています。抗酸化酵素には、グルタチオンペルオキシダーゼやスーパーオキサイドディスムターゼなどが存在します。グルタチオンペルオキシダーゼはグルタチオンとセレンを主成分とした抗酸化酵素で、全身の細胞に不偏的に存在します。新型コロナウイルス感染症の重症者では、グルタチオンとセレンの血中濃度の低下が報告されています(注7, 8)。スーパーオキサイドディスムターゼは亜鉛などの微量ミネラルを主成分とした抗酸化酵素の総称です。新型コロナウイルス感染症の重症者では、亜鉛の血中濃度の低下が見られたとの報告があります(注7, 9)。したがって、抗酸化酵素の働きを維持するために、グルタチオンや、セレンと亜鉛を中心とした微量ミネラルの補給が勧められます。

1日の摂取量としては、グルタチオンは1回90mgを3回程度、セレンは1回36μgを3回程度、亜鉛は1回30mgを3回程度摂取することが勧められます。

③ 抗酸化物質のビタミンC・E、亜鉛、α-リポ酸、カロテノイドを補給する

抗酸化酵素の働きは加齢に伴い低下しますので、抗酸化作用のある栄養素を食事から取り入れることも大切です。抗酸化物質には様々な種類がありますが、単独では効果を発揮しにくいため複数の抗酸化物質を組み合わせることが重要です。私たちの身体には水層(血液や細胞質など)と脂質層(細胞膜や脂肪など)が存在します。抗酸化物質にも水溶性のものと脂溶性のものがありますので、両方を組み合わせることで初めて全身の細胞を活性酸素から効率的に守ることができます。

水溶性の抗酸化物質としてはビタミンC、脂溶性の抗酸化物質としてはビタミンEや、色の濃い食材に豊富な天然の色素成分であるカロテノイド(β-カロテン、リコピン、ルテイン、アスタキサンチンなど)が挙げられます。新型コロナウイルス感染症では、重症者でビタミンCとビタミンE(γ-トコフェロール)、β-カロテンの血中濃度の低下が報告されています(注7)。α-リポ酸は水溶性と脂溶性の両方の性質を併せもつ抗酸化物質で、新型コロナウイルス感染症の重症化予防に役立つ可能性があるとの見解を示す仮説が発表されています(注10)。

ビタミンCは免疫力を維持するためにも欠かせない栄養素であるため、感染時は1回1~2gを1日6回程度摂取することが望まれます。ただし、ビタミンCを一度に多量摂取すると腹部不快感が起こる場合がありますので、量を適宜調整してください。ビタミンEは1回200IUを3回程度、カロテノイドはビタミンAと併せて1回10,000IUを3回程度、α-リポ酸は1回60mgを3回程度毎日摂取することが勧められます。

3. 傷ついた細胞を速やかに回復する分子整合栄養学的アプローチ

ウイルスに感染すると、ウイルスの増殖を抑制するために感染細胞が壊されます。細胞数が減少すると組織の機能が低下しますので、新たな細胞をつくって細胞組織の機能を維持することが重症化予防において重要です。

① エネルギー代謝に不可欠なビタミンB群とコエンザイムQ10を補給する

新たな細胞をつくるにはエネルギーが必要です。エネルギーは、私たちが食事から摂取する三大栄養素(糖質・脂質・タンパク質)が消化・吸収されて産生されます。感染時は通常時の1.2~2倍程度のエネルギーが消費されることと、エネルギー摂取量が低下すると免疫力も低下することを考慮し、十分なエネルギー量を確保することが重要です(注11)。

前編で取り上げた通り、三大栄養素を利用したエネルギー代謝にはビタミンB群が不可欠です。ビタミンB群はビタミンB1・B2・B6・B12、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、葉酸の総称で、複合体(コンプレックス)での少量頻回摂取が理想的です。感染時の1日の摂取目安量としては、エネルギー代謝に特に関わりの深いビタミンB1・B2・B6を中心に、ビタミンB群複合体として1回225mgを3回程度摂取することが勧められます。

コエンザイムQ10はエネルギー代謝と抗酸化対策に関与することから、新型コロナウイルス感染症の重症化を防ぐために補給が勧められている栄養素です(注12)。コエンザイムQ10は生体内に不偏的に存在しますが、加齢に伴い合成量が低下するためダイエタリーサプリメントの利用が勧められます。1日の摂取目安量としては、1回100mgを3回程度摂取することが望ましいです。

② 細胞の構成材料となるタンパク質とビタミンA、亜鉛を補給する

前編でも取り上げた通り、タンパク質は全身の細胞の構成材料となるため最も重要な栄養素です。新型コロナウイルス感染症では、重症者でアルブミンというタンパク質の血中濃度の低下が報告されています(注13)。感染時の1日の補給量としては、体重1kgあたり1g補給することが理想的ですが、難しい場合は最低30g以上摂取することを心掛けましょう。

新たな細胞をつくるためには、新しい細胞の成長(分化)を促進するビタミンAと亜鉛が必要です。新型コロナウイルス感染症の重症者では、ビタミンAと亜鉛の血中濃度が低下しているという報告があります(注7, 9, 14)。ビタミンAや亜鉛は免疫力の維持にも関与しますので、十分な補給量を確保する必要があります。1日の摂取目安量としては、ビタミンAは1回10,000IUを3回程度、亜鉛は1回30mgを3回程度摂取することが望ましいです。

③ 消化・吸収をサポートする食物由来の酵素とグルタミンを補給する

食事から栄養素を取り込んで体内で利用するためには、胃腸の消化・吸収能力が十分に機能している必要があります。

食物を消化するために不可欠なのが胃酸と消化酵素です。消化酵素は加齢に伴い分泌が低下しますので、特に食後に胃もたれや胸やけを感じる方は麹抽出濃縮物などの食物由来の酵素の補給が必要です。麹抽出濃縮物を利用する場合は、食事と共に580mg程度摂取することが望ましいです。また、タンパク質摂取後に胃もたれや腹部膨満感を感じる場合は、アミノ酸(タンパク質の最小構成単位)としての補給も勧められます。

新型コロナウイルス感染症では下痢などの消化器症状が現れることがありますが、下痢は小腸上皮細胞が剥がれ落ち栄養素の吸収能力が低下した状態を意味します。下痢に対しては小腸上皮細胞のエネルギー源となるグルタミンの補給が役立ちます。グルタミンは免疫細胞のエネルギー源でもありますので、感染時は1日に1回6~9gを3回程度摂取することが勧められます。

おわりに

ワクチンの普及や特効薬の研究・開発が急ピッチで進められていますので、新型コロナウイルス感染症の脅威はいつか必ず過ぎ去ります。それでもきっと、私たちはいつかまた新たなウイルスの脅威に曝されることでしょう。しかし、今回ご紹介した分子整合栄養学的アプローチは、どのような感染症が流行しても自分の身体を守るという意味では基本的に変わることはありません。それは、分子整合栄養学が「身体に必要な栄養素を適切な量、適切なバランスで摂取することにより、正常な細胞機能を維持し、健康維持に役立てる」ことを目指しているからです。自分の健康と大切な人の生命を守るために、これからも分子整合栄養学を共に学び、実践してまいりましょう。

注意事項

当記事は主に入院治療の必要がない経過観察中の軽症者や無症状者の方を対象としています。重症者では酸素投与や薬剤治療、人工呼吸器などによる集中治療が必要な場合がありますので、感染が疑われる場合は各都道府県が設置している「受診・相談センター」や「診療・検査医療機関」へ速やかにご相談ください。

注1: Ilie PC, et al. The role of vitamin D in the prevention of coronavirus disease 2019 infection and mortality. Aging Clin Exp Res 6: 1-4, 2020.
注2: Asher A, et al. Blood omega-3 fatty acids and death from COVID-19: A pilot study. Prostaglandins, Leukotrienes and Essential Fatty Acids 166: 102250, 2021.
注3: Brendler T, et al. Botanical drugs and supplements affecting the immune response in the time of COVID-19: Implications for research and clinical practice. Phytotherapy Research: 1-19, 2020.
注4: Lucas K, et al. Cinnamon and Hop Extracts as Potential Immunomodulators for Severe COVID-19 Cases. Front Plant Sci 12: 589783, 2021.
注5: Mrityunjaya M, et al. Immune-Boosting, Antioxidant and Anti-inflammatory Food Supplements Targeting Pathogenesis of COVID-19. Frontiers in Immunology 11: 570122, 2020.
注6: Beltrán-García J, et al. Oxidative Stress and Inflammation in COVID-19-Associated Sepsis: The Potential Role of Anti-Oxidant Therapy in Avoiding Disease Progression. Antioxidants 9: 936, 2020.
注7: Pincemail J, et al. Oxidative Stress Status in COVID-19 Patients Hospitalized in Intensive Care Unit for Severe Pneumonia. A Pilot Study. Antioxidants 10: 257, 2021.
注8: Moghaddam A, et al. Selenium Deficiency Is Associated with Mortality Risk from COVID-19. Nutrients 12: 2098, 2020.
注9: Jothimani D, et al . COVID-19: Poor outcomes in patients with zinc deficiency. Int J Infect Dis 100: 343-349, 2020.
注10: Sayiner S, et al. Alpha Lipoic Acid as a Potential Treatment for COVID-19 – A Hypothesis. Current Topics in Nutraceutical Research 19(7):172-175, 2021.
注11: 東口髙志 他. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療と予防に関する栄養学的提言. 日本臨床栄養代謝学会 2(2): 84-94, 2020.
注12: Ayala DJMF, et al. Age-related mitochondrial dysfunction as a key factor in COVID-19 disease. Experimental Gerontology 142: 111147, 2020.
注13: Paliogiannis P, et al. Serum albumin concentrations are associated with disease severity and outcomes in coronavirus 19 disease (COVID-19): a systematic review and meta-analysis. Clinical and Experimental Medicine: 1-12, 2021.
注14: Sarohan AR, et al. Retinol Depletion in Severe COVID-19. medRxiv. doi: https://doi.org/10.1101/2021.01.30.21250844.

(監修:KYB豊崎クリニック院長 医師 田畑 淳子 / 発行日:2021年5月28日)

前編はこちら     
   
  
 

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