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パンデミック時だからこそ大切にしたい分子整合栄養学的アプローチ 【前編】

2019年に中国武漢から始まり、いまだ世界中に広がっている新型コロナウイルス感染症。変異株が日本に入ってきて以来、主要都市を中心に猛威をふるっています。

2021年2月17日よりワクチン接種がスタートし、政府は9月までに国内の全対象者分のワクチンを確保する見通しですが、希望者全員が接種できるまでにはまだまだ時間がかかりそうです。また、ご留意いただきたいのは、ワクチンは感染予防を100%保証するものではないということと、今回のワクチンはメッセンジャーRNAワクチンという新しい種類のワクチンですので、接種後の副反応を考慮して自己責任でワクチンを打つ必要があるということです。

新型コロナウイルス感染症から身を守るために、私たちにできることは何でしょうか。当記事では、今こそ私たちがすべき新型コロナウイルス感染症対策について2部に渡って解説します。前編では感染予防のための分子整合栄養学的アプローチについて、後編では感染してしまった際に重症化を防ぐための対策について取り上げます。

1. 新型コロナウイルス感染症の特長

新型コロナウイルス感染症の特徴は「長引く症状」と「肺炎の重篤化」です。

新型コロナウイルス感染症では、従来株の場合、感染者の多くが無症状か軽症です。症状が出るケースでは、感染初期に発熱や咳、倦怠感などの風邪に似た症状が7日程度と比較的長く続いた後、80%は重症化せずに軽快すると言われています(注1)。初期症状が軽快せず重症化すると肺炎を発症して入院が必要となり、肺炎が重篤化すると最悪の場合死に至ります。

では、どのような方が重症化しやすいのでしょうか。これまでの研究により、「65歳以上の高齢者」や「基礎疾患がある方」に加えて、「栄養状態が悪い方」や「骨格筋量が減少している方」で重症化しやすいことが明らかになってきました(注2)。

2. 感染予防において栄養状態が重要な理由とは?

感染予防に栄養状態が重要な理由は、免疫力を維持するために栄養素が必要だからです。

私たちの身体は常に様々な病原体に曝されているため、防御システム(免疫)を備えています。例えば、口腔や胃腸の粘膜は病原体が血中に侵入するのを防ぐ物理的なバリアを展開しており、粘膜が分泌する粘液の中には免疫細胞が待機しています。身体に病原体が侵入すると全身から免疫細胞が集まってきて抗体を産生し、抗体を病原体に結合させることで無害化します。粘膜や粘液、免疫細胞、抗体の主成分はタンパク質ですので、タンパク質の摂取不足は免疫力低下の一因となります。

タンパク質の不足と免疫力の低下を関連付ける興味深い研究があります。アルブミンという血中のタンパク質が減少すると、インフルエンザワクチン接種後に抗体が十分に産生されず、感染予防率が低下することがわかっています(注3)。アルブミンは全身の細胞を構成する体タンパク質の材料となる他、栄養素の運搬にも関わっているため、血清アルブミン値の低下は低栄養状態を反映すると言われています。新型コロナウイルス感染症においても、重症患者で血清アルブミン値が低下していたという報告があり、今後の更なる研究が望まれています(注4)。タンパク質の摂取量が長期的に不足すると骨格筋量が減ってきますので、「栄養状態が悪い方」や「骨格筋量が減少している方」で重症化しやすい理由がおわかりいただけたかと思います。

WHO(世界保健機関)によっても、新型コロナウイルス感染症の発症を防ぐための栄養学的な提言がなされており、新型コロナウイルス感染症予防における栄養の重要性は疑いの余地のないものとなっています。以下では、免疫力を維持するためにKYBクリニックが推奨する分子整合栄養学的アプローチをご紹介いたします。 なお、当記事では、各栄養素に対してKYBクリニックが推奨する1日の摂取目安量を記載していますが、栄養素の必要量には個体差があり、身体の状態によっても必要量は異なりますので、健康に不安を感じる方はお早めに分子整合栄養学の専門医にご相談ください。

3. 免疫力を維持するための分子整合栄養学的アプローチ5選

① タンパク質を毎日・毎食取り入れる

タンパク質は免疫細胞を含む全身の細胞の構成材料となるため、最も重要な栄養素です。

タンパク質は原則として体重1kgあたり1gの摂取が望ましいとされていますので、体重50kgの方では1日50gの摂取が必要です。これは納豆であれば約6パック、卵であれば約8個に相当します。これだけのタンパク質量を食事だけで賄うのは困難ですので、タンパク質を含む食品を毎日・毎食取り入れることに加えて、適宜ダイエタリーサプリメントの利用が勧められます。

② エネルギー代謝を低下させないためにビタミンB群と鉄を補給する

免疫細胞を含む全身の細胞が正常に働くためにはエネルギーが必要です。

私たちは三大栄養素(糖質・脂質・タンパク質)と酸素を細胞に取り込んでエネルギーを産生しています。三大栄養素を利用したエネルギー代謝には、ビタミンB群が不可欠です。ビタミンB群はビタミンB1・B2・B6・B12、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、葉酸の総称ですが、互いに協調して働くため、複合体(コンプレックス)での摂取が理想的です。また、ビタミンB群は水溶性ビタミンで体内に長時間維持しておくことができないため、少量頻回摂取が望ましいとされています。1日の摂取目安量としては、エネルギー代謝に特に関わりの深いビタミンB1・B2・B6を中心に、ビタミンB群複合体として1回150mgで3回程度摂取することが勧められます。

また、エネルギー産生には酸素が欠かせませんので、貧血対策は非常に重要です。酸素は呼吸を通じて血中に取り込まれ、赤血球によって全身の細胞に運ばれます。赤血球の主要成分はタンパク質とヘム鉄ですので、これらが不足すると貧血になります。貧血では全身に酸素を供給する力が低下しますので、エネルギー不足から免疫力が低下します。特にヘム鉄は、効率の良い補給源となる食品が少なく、少量ずつしか体内に取り込むことができません。赤身の魚肉類を食事に取り入れることに加えて、ダイエタリーサプリメントを利用して毎日少量ずつ摂取し続けることが大切です。ヘム鉄は、1回5~10mgを1日に3回程度摂取することが望ましいとされています。ただし、鉄の充足度や消化・吸収能力によって必要量に個体差がありますので、定期的に血液検査を受けて分子整合栄養学の専門医にご相談ください。

③ 免疫細胞の働きをサポートするグルタミン、ビタミンA・C、亜鉛を補給する

グルタミン、ビタミンA・C、亜鉛は新型コロナウイルス感染症との関連性を示す研究があり、臨床における更なる研究が望まれています(注5-9)。
グルタミンはアミノ酸(タンパク質の構成成分)の一種で、主に腸粘膜の主要エネルギー源として知られています。グルタミンは免疫細胞のエネルギー源にもなりますので、感染症に罹った際は特に補給が勧められる栄養素です。グルタミンは1回3gを1日3~4回程度摂取することが望ましいと言われています。

ビタミンCは免疫細胞の一種であるマクロファージの働きをサポートします。マクロファージは他の免疫細胞に病原体の存在を知らせる役割を担っており、粘液の中を巡回しています。ビタミンCはマクロファージの巡回能力(遊走性)を高めることがわかっています。ビタミンCは水溶性ビタミンで体内に長く留めておくことができないため、1回1gを1日3~6回程度摂取することが勧められます。

ビタミンAと亜鉛は、免疫細胞を含む全身の細胞のターンオーバー(新陳代謝)を促進します。私たちの身体は古い細胞が壊され、新しい細胞が作られることにより生命を維持しています。ビタミンAと亜鉛は新しい細胞の成長(分化)を促進する働きがあるため、不足すると免疫細胞が減少し免疫力の低下を招きます。ビタミンAは1日に30,000IU程度、亜鉛は1回あたり30mgを1日3回程度摂取することが望ましいです。

④ 過剰な炎症を抑制するビタミンDとEPA・DHAを補給する

新型コロナウイルス感染症の重症化の原因として考えられているのが、炎症による細胞機能の低下です。炎症とは免疫細胞が病原体を除去するために起こす防衛反応のことですが、過剰に起こると正常な細胞まで傷つけてしまう諸刃の剣です。ご高齢の方や基礎疾患がある方で重症化しやすいのは、過剰な炎症が誘発されやすいためです。

ビタミンDは過剰な免疫反応を抑制して炎症を抑える働きがあります。新型コロナウイルス感染症患者では、ビタミンDの血中濃度の低下と重症度との間に関連性を示す報告があります(注10)。ビタミンDは日光を浴びると体内で合成されるため不足することは稀と考えられてきましたが、近年では日焼け対策や屋外活動時間の減少により不足が懸念されています。特に現在は自粛生活の影響もあり更なる不足が危惧されています。ビタミンDの血中濃度を高めるには、1日に8,000~12,000IU程度摂取することが望まれます。

EPA・DHAはω3系必須脂肪酸の一種で、炎症を抑制する働きをもつことから、新型コロナウイルス感染症の重症度と関連があるのではないかと考えられている栄養素の一つです(注11)。脂肪酸には様々な種類がありますが、私たちが普段よく食べている肉や卵には、過剰に摂取すると炎症を促進するω6系必須脂肪酸が含まれています。ω3系とω6系は互いに協調して働くため、ω6系に偏りがちな現代の食生活ではω3系の積極的な補給が勧められています。EPA・DHAはサバなどの青魚に多く含まれますので、なるべく魚を食べるように心掛けたり、ダイエタリーサプリメントを利用したりするなど工夫しましょう。ダイエタリーサプリメントを利用する場合は、EPA・DHAとして1日1g程度摂取することが勧められます。

⑤ プロバイオティクス・プレバイオティクスを利用して腸内環境を整える

見関連性がなさそうですが、「腸は最大の免疫器官」と呼ばれており、感染症対策において腸内環境は非常に重要です。

私たちの身体には食事を通じて様々な病原体が取り込まれるため、栄養素の消化・吸収を担う小腸には、全身の免疫細胞の70%以上が集中しています。腸内を無菌状態にしたマウスでは免疫力が大幅に低下するという報告があるため、免疫力を維持するために腸内環境が大切であると考えられています。新型コロナウイルス感染症では、腸内環境の悪化と重症度との間に相関性が見られるとの報告があり、今後の更なる研究が期待されています(注12)。

では、「腸内環境が良い状態」とは何でしょうか。それは、腸内で棲息している様々な細菌のうち、有用菌(善玉菌)が優勢な状態のことです。腸内細菌は有用菌(善玉菌)、日和見菌、有害菌(悪玉菌)に大別されます。有用菌と有害菌は常に勢力争いを繰り広げており、食べたものによって勝負の行方が決まります。有用菌が優勢の良好な腸内環境づくりに役立つ食品にはプロバイオティクスとプレバイオティクスがあります。

プロバイオティクスとは、身体にとって良い働きをする生菌のことで、乳酸菌や酪酸菌が広く知られています。プロバイオティクスは、有用菌に加勢して有害菌が増えにくい環境をつくる他、腸内の免疫細胞を刺激して免疫力の向上に役立ちます。プロバイオティクスは腸粘膜に定着できず、数日で便として排泄されてしまいますので、毎日継続的に摂取することが大切です。

プレバイオティクスは、有用菌の栄養源となる水溶性食物繊維のことで、有用菌の増殖に役立ちます。また、プレバイオティクスを有用菌が代謝して産生される短鎖脂肪酸は、有害菌が増殖しにくい環境をつくることに加えて、免疫細胞による抗体の産生を促進する働きをもちます。プレバイオティクスも、プロバイオティクスと同じく毎日の継続的な摂取が大切です。

4. おわりに

高齢者のワクチン接種の予約が始まりましたが、実際に接種できるまでには今しばらく時間がかかりそうです。また、ワクチンを接種したからと言って、新型コロナウイルス感染症を100%予防できる訳ではありません。「マスクをする」「こまめに手を洗う」「人混みを避ける」などの基本的な感染症対策に加えて、分子整合栄養学的アプローチを実践して自分の健康は自分で守りましょう。

後編では、新型コロナウイルスに感染してしまった際に重症化を防ぐための対策についてお伝えします(後編はこちら)。

注1: 厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 第4.2版.
注2: Wang PY, et al. Sarcopenia: An underlying treatment target during the COVID-19 pandemic. Nutrition 84:111104, 2021.
注3: Lesourd BM. Nutrition and immunity in the elderly: modification of immune responses with nutritional treatments. American Journal of Clinical Nutrition 66:478S-484S, 1997.
注4: Huang W, et al. Decreased serum albumin level indicates poor prognosis of COVID-19 patients: hepatic injury analysis from 2,623 hospitalized cases. Science China Life Sciences 63:1678-1687, 2020.
注5: Cengiz M, et al. Effect of oral l-Glutamine supplementation on Covid-19 treatment. Clinical Nutrition Experimental 33:24-31, 2020.
注6: Midha IK, et al. Mega doses of retinol: A possible immunomodulation in Covid-19 illness in resource-limited settings. Rev Med Virol:e2204, 2020.
注7: Sarohan AR, et al. Retinol Depletion in Severe COVID-19. medRxiv. doi: https://doi.org/10.1101/2021.01.30.21250844.
注8: Holford P, et al. Vitamin C- An Adjunctive Therapy for Respiratory Infection, Sepsis and COVID-19. Nutrients 12(12): 3760, 2020.
注9: Jothimani D, et al. COVID-19: Poor outcomes in patients with zinc deficiency. Int J Infect Dis 100: 343-349, 2020.
注10: Ilie PC, et al. The role of vitamin D in the prevention of coronavirus disease 2019 infection and mortality. Aging Clin Exp Res 6: 1-4, 2020.
注11: Asher A, et al. Blood omega-3 fatty acids and death from COVID-19: A pilot study. Prostaglandins, Leukotrienes and Essential Fatty Acids 166:102250, 2021.
注12: Yeoh YK, et al. Gut microbiota composition reflects disease severity and dysfunctional immune responses in patients with COVID-19. Gut 70:698-706, 2021.

(監修:KYB豊崎クリニック院長 医師 田畑 淳子 / 発行日:2021年5月20日)